運送会社の時間管理と顧客ニーズがかみ合わないジレンマ
──改善基準の遵守が難しい長距離運行が主体だとお聞きしています。長距離運行ならではの課題はどんなところにあるのでしょうか?
一般的に長距離の運行は、いわゆるメーカーさんの工場に積み込みに入って、どこかの会社さんに降ろすってことがほとんどといったところで、まず自分たちで時間のコントロールがなかなか効かないっていう。
例えば積み込みするときもお客さんの品物ができあがってるかどうかっていうところに左右されますし、荷降ろしもお客さんの指定される時間に持ってかないといけないんで、その間の夜間とか早朝に走行する時間っていうのは、お客さんが考えるリードタイムって走行距離に対して結構長く感じるんですね。
例えば夕方の15時に積み終わったとして、翌朝9時に届けてくださいって言うと、18時間あるんですよね。
18時間あるってことは、お客さんにとっては時間があるっていう考え方になるんですね。
これが地場の配送ですと、何件かまわろうとした場合、時間キツキツに入れてかないといけないんで、例えば朝積み込みに入った時とかリードタイム、1日の中での時間の捉え方っていうのが、お客さんと運送会社と中での違いがあることがネックなんです。
そういったなかで1時間とか2時間縮めてくださいっていうことに対して、お客さんにとってのメリットってあんまりないんですよね。
積み込み先の工場にとって早く積むっていうのは工程を早めないといけないっていうデメリット、荷降ろしの方にとっても時間を早めてくださいとか遅くしてくださいって、着荷主さんからすると顧客に対する営業面でのデメリットがある。
つまり、運送会社の立場に立つっていうことはお客さんにとってメリットがないんですよね。
結局走行時間だけ考えれば、夕方の3時に積めたって7時間走れば間に合いますよねってことだけ考えれば、別に早める必要もまったくないですよね。
そこと運送会社の改善基準告示、法律との兼ね合いっていうのは荷主さんにとって今まではあまり意味をなさなかったいう、そこの捉え方が大前提として違うのがまず1番大きいところなんですね。
それでもやる業者さんが今までもいたんで。
時間内で間に合いますよねってことだけ考えてれば、それでやる業者さんがいる、法律を無視してやれば間に合いますので。
顧客との時間調整交渉。時間指定の柔軟化が運送現場の負担軽減に。
──時間の捉え方の違い、メリットや必要性の観点から、理解が得にくいということですね。そんな中でどう改善に取り組んでいったのでしょう?
当たり前ですけど積み込み時間を、うちが積み込みたい時間にしてもらうっていうのがまずひとつですね。
あと荷降ろし先の方もうちが降ろしたい時間に降ろせるのが一番自由がきくんで、当然両方やった方がいいんですよね。
うちが交渉してきた中で言いますと、まず発荷主の方に「積み込みを早くしてください」ってお願いするとですね、先方のお客さんの要望の締め切りを早めないといけないんですね。どんなものでも作るのに時間がかかるので。
例えば先方がお客さんに売る時の営業面で言うと「今日のお昼の12時まではオーダー取ります」と。
そこから作って3時に出来上がって積み込みするのがひとつのサービスだったとした時に、うちが「12時までには積んでくださいね」って言うと、事実上その日のオーダーは受け付けませんってなるんで、そうするとジャストインタイムみたいな感じで、待ちたくないお客さんからすると「もっと利便性の効くところから買いたい」になっちゃうんですよね。
営業マンっていうのは、やっぱりなるべくお客さん寄りの方がいいわけですよね。
それを崩していかないといけなくなっちゃうんで「早めてください」っていうのは、結構大変な作業なんですよね。
強みがなくなっちゃうって会社もやっぱりあるんで。それでも一応まずお願いする。
もうひとつは荷降ろし先。例えば朝9時に着けてくださいねっていうところを午前中着にしてくださいみたいな。
もう時間はぼんやりにしてくださいね、みたいな話をうちは今までしてきてたんですね。
これも荷降ろし先の問題があって。
9時に荷降ろし行きますっていうことだったら、荷降ろし先は9時に待ってるわけですね。だからその後の仕事の段取りが組めるんですけど。
午前中着でって言ったら9時かもしれないし10時かもしれないし11時かもしれないってことになると、それはまた荷降ろし先のロスがあってですね、それはそれでやっぱり困るんですよね。
これも結構なかなか難しいとこではあったんですけど‥。
うちが今までメーカーさんと話してきた中で言うと、意外と荷降ろし先の方の時間指定を緩めてくださいって言った方が応じてくれましたね。
これどういう流れで言うかって言うと、例えば時間指定が9時必着であると。
当然ドライバーは遅れちゃいけないので、どこか前の時間、1時間とか2時間、待機時間を持ってないといけないんですよね。
拘束時間の関係があって、荷降ろし時間に対する待機時間を解消して欲しいと。
運行時間に余裕ができるんで、そうしてくださいって言うと、比較的荷降ろし先の方はまだ受け入れやすい。
第2段階は、発荷主の方も、ユーザーさんのオーダーの締め切りを早めてもらって、積み込み時間を早くする。今はそっちの方になってます。
専務時代から始めた改善の取り組み。きっかけはドライバーからのきついひとこと。
──社長就前の早い段階から改善に取り組み出したとお聞きしています。
あの頃は多分まだ自分が専務だったから言いやすかったっていうのもあるんですよね。
僕がお客さんにとって変なこと言ったとしても、一応、取り消し・修正できたっていうところはありますね。
ただやっぱり時間の問題は本当に‥。
うちの行動指針っていうのがあってですね、まずひとつめに「法律とルールを守る行動します」っていう条文があるんです。
私はその当時、早朝の点呼をしてたんですけど、その時にドライバーが「“法律とルールを守る行動します”ってここに書いてあるけどこれ本当に守れてるの?」みたいなことを強めに言われてしまって。
でも実際そうだなっていうところもあったんで、そうやって言われないように、って本格的に取り組むようになったわけです。
大切なのは“自分のタイミング”で改革すること。
ここに至るまでに行政処分を受けたこともあるんですね。事故を起因としたものとかで。
あくまで例えばですけど法律をおろそかにして売上を上げたとして、事故とか監査が入ると、そこで全部吐き出しちゃうんですね。
そういうことになっちゃうと、積み上げてきたものが全部なくなっちゃう、そこで大改革をやらないといけないですね。
やっぱり監査があって結局処分を受けることになった時に、“自分のタイミング”で改革ができなくなると、やっぱり会社っておかしくなる。
慌てて急場しのぎで色々やると、例えばその時に3ヶ月とか半年とかこの間だけでも大改革しようと思うと、今までやってた仕事を断らないといけない。
そのままやってたとしてもコストがすごく上がっちゃうっていう。
そうすると赤字の幅がむちゃくちゃでかくなっちゃうんですよね。
実はこういうことが2回ぐらいあって、自分の思うタイミングでやらないことによって、そういうことが起きたっていうのは、自分が社長じゃない時に起きてたんで、やっぱりこれは自分がやれるタイミングの時にやれることをやっていった方がいいなと思ったんで、早めに少しずつ取り組んでいった方がいいかなっていう考え方に変わってっていったんですね。
年齢と経験、そして人間関係。現場で学んだマネジメント。
──そんな中、年長社員への教育や指導、社内風土の改革ではどんな苦労をされたのでしょう?
1番最初にドライバーをやってる時は、社長の息子だって言っても、同じ現場職なんで比較的好意的に皆さん接してくれるんですが、配車やるようになった時に、こちら側が指示するっていう立場になるもんですから、そうするともうその時点で急に態度が変わる人がやっぱり出てくるっていうのがまずありましたね。
リアルにそれで辞めたっていう人もいますし。
「お前が配車するんだったら俺は行かない」とか、「お前がずっと配車やるんだったら俺はもう辞める」とか。
もう25年ぐらい前ですけどそういうことがありましたんで。
やっぱりまだ20代だったと思いますので、その当時は同じぐらいの年の人が3人ぐらいはいたんですけど、残りは50代とか40 代とかの人が多かったんで、やっぱり1発目からそういうことがあると、だいぶ接し方は気をつけないといけないっていうか。
その頃はもう日常の取り回しは僕がほとんどやってましたんで、色々痛い目はあいましたけど、そういう人の使い方はだいぶ学びました。
ただ役職もそうかもしれませんけど、自分が歳をとってくると、単純に年下だからムカつくとか、年上の人だから言うことを聞く、っていうドライバーが一定数いるんで。
同じことを言ったとしてもそういうところが人間の心理としては多少あるんで。
長くやればやるほどある程度やりやすくなったり、あとはやっぱり自分で面接して採用するようになってから、ちょっと変わったかもしれないですね。
人が会社をつくる、だから“一緒にやれる人”を選ぶ
──ご自身で採用されるようになってから、より社内風土の改革へと繋がっていくんですね。
まずこちら側からすると自分と馬が合うっていうか、一緒にやってくれそうな人をまず選ぶっていうところですし、全然使いこなせなさそうな人は断るんで。
まず自分が一緒にやれそうな人を採用するっていうところと、あと相手側からするとやっぱりこの人に採用してもらったっていうか、そこは大きいと思いますけどね。
組織としてというよりも、やっぱり個人と個人での関係性になってるから。
当時は結構やんちゃな人が多かったんで。
そういうところから自分が一緒にやりやすそうな人と入れ替わったり、当然そういうことになると今までの人は辞めることにはなるんですけど、それで入れ替わってく中で会社をつくるしかないっていうか。
今までいる人が変わってくれればいいんですけど、やっぱり社員さんは色んな運送会社の中から選べるってことになると、自分が変わるより自分の合ったところへ行った方がいいっていう考え方が一般的には多いような気がするんで。
人が入れ替わりながら形作ってく中で、面接する時でも、うちはこういう会社だよ、いいですか、って。
よく言うのが、「うち帰宅部ノリだから」みたいな話をするんですけど。
体育会系の人はまずこない(笑)
10年15年ぐらいかけて、僕が社長になった時にはもうほとんど入れ替わってるんで、会社が変わっていくタイミングでやっぱりついてこれない人も中には結構いたんで、そこで変わっていったっていうか。
実際その時に勤めてた人ってのは、面接した時と勤めてる間の会社がいいと思って勤めてるんで。
変わると自分の望んでる職場じゃないんですよね。
やっぱり会社が変わった時にあえて自分を変えようっていうのは少ないような気がするんですよね。
運送会社じゃなくても、社長が変わると退職者が出る。
だから今思えば、社長が変わりますってなる前に、2番手でやってた時から変えてったのが良かったのかもしれない。
顧客と築いた信頼関係が、働き方改善の鍵に
──今では有給の取得率もかなり高いとお聞きしました。
長距離をやってるとやっぱりどうしても間延びはするんですよ。やっぱり締めきれないところが。
積み降ろしの時間をお客さんと相談するのもそうなんですけど、あとはもうシンプルに運行回数を減らすしかない、お休みを増やすしかないっていう。
実際今は運行回数減ってるんで、有休も消化率9割ぐらいに多分なってるんですよ。
だからやっぱりその会社のお客さんによって、できるところとできないところっていうのはどうしてもあると思う。
うちが恵まれてるのは、直接メーカーさんとか、物流子会社さんとか、大手の会社さんのアンダーじゃなかったのは大きい。信頼関係のもと、話を聞いてもらったりとか、要望に応えてくれる。
あとはやっぱり平ボデだったからできたっていうのはあると思うんです。
価格転嫁しやすいっていうか。
途中でウイングに切り替えようかなと思った時もあったんですけど。
ある意味ふんぎりがつかなかったってところもあったんですけど、やっぱりお客さんがいたんで。
今となってはウイングに変えずに平ボデできたのは良かったかな。
やっぱりそれまでの間は色々考えたりはしてたんですけどね。
お酒抜きで本音を交わす。トラマネの“リアルな場”の価値。
──トラマネ創設時からのメンバーである桝田さんから見て、トラマネはどんな場所ですか?
当たり前ですけど、お酒がない席で話をするじゃないですか。
これが他の会とかだと、セミナーを聞いて懇親会、みたいな流れが割と多いと思うんですね。そうすると、研修はその場で聞くだけで、懇親会は大体お酒入っちゃうんですね。
そんな流れで「会社どう?」って言ったって‥。
トラマネみたいにお酒の席がまったくない時間で話す聞くっていうところ。
自分たちの意見を出し合うとか、言い合う、自分の会社の取り組みをみんなで発表するっていうのは、意外とありそうでない。
あとはやっぱりね、瀬尾さんのところみたいに、ちゃんとやってるところがあるっていうのがあると、やらないといけないんだってなる。
何回も拝見してますけど、ドライバーの時間とかをバーっと一覧で出すじゃないですか。
皆さんこうやってちゃんと綺麗に守られてるわけですよね。
運ぶ仕事が違うとか言い始めたら結局何も変わらないんですけど、そういう会社がある。
やっぱりちょっとでも近づけないといけないな、そういう目標になるんで。
あんなにドライバーさんの時間を一覧表で人に見せる時ってないじゃないですか。
その辺の会社にいきなり行って、ちょっとドライバーさんの‥って見せないですよね。
こっちもそんなこと言えないし、当然トラマネだから瀬尾さんも見せてくれるんで。